墨田簡易裁判所 昭和43年(ろ)315号 判決 1968年6月04日
主文
被告人豊永ユリ子を罰金一五、〇〇〇円に、同小森義正を罰金七、五〇〇円に処する。
右罰金を完納することができないときは金五〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
理由
(事実)
被告人豊永ユリ子は公安委員会の運転免許を受けていないもの、同小森義正は普通自動車の運転免許を受けているものであるが
一、被告人豊永は、昭和四三年四月一三日午後六時四〇分ころ、東京都中央区晴海五丁目三番地先道路上で軽四輪貨物自動車を運転し、
二、被告人小森は、被告人豊永の右犯行に際して、同人が運転免許を有していない事実を知りながら運転席をゆずり、自らは助手席にあつて、アクセル、クラッチ、ブレーキなどの操作をなして被告人豊永の右自動車の運転を許容し、もつて同人の無免許運転を容易ならしめてこれを幇助し
たものである。
(証拠)<省略>
(適条)
被告人豊永ユリ子の判示所為は道路交通法第六四条第一一八条第一項第一号に、被告人小森義正の判示所為は刑法第六二条第一項、道路交通法第六四条第一一八条第一項第一号に該当するので各所定刑中罰金刑を選択し、被告人小森は従犯であるから刑法第六三条第六八条第四号に則り法定の減軽をしたうえ、各所定金額の範囲内で被告人等をそれぞれ主文の通り処断すべく、なお刑法第一八条を適用して、被告人等が右罰金を完納することができないときは金五〇〇円を一日に換算した期間労役場に留置する。
被告人小森の取得している運転免許は、道路交通法の免許に関する諸規定からみて、同人自らが自動車を運転できる免許で他人をして自動車を運転させる権限までは含まれておらず、被告人が運転することはもとより自由であるけれども、他人に運転行為を許すことは免許権の範囲を逸脱した違法のものといわざるを得ない。すなわち、被告人小森は、同豊永から運転を教えてくれと頼まれても、同人が無免許者であることを知つているのであるから、その申出を当然拒絶すべきであるのにこれを為さず、安易に運転席をゆずり、たとえ走行距離約二〇〇メートルとはいえ、被告人豊永にハンドルを操作させて運転を許したことは正犯の実行行為を容易ならしめたことに帰するから、本件のような場合、被告人小森に対し無免許運転幇助の罪責を認めるのが相当である。(並木撃)